もえもえ図鑑

2008/11/04

銀貨三枚の矜持(2)

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「礼金などいらないよ。実費は予算からいただいた。同じ主君に仕える誼(よしみ)じゃないか。他人行儀はよしなさい。それともあれか、私はあんたにとっても、まだまだ仲間ではないのかねえ」
 皮肉に笑う顔で、ファサルは言った。ラダックは居心地が悪かった。
「そうではないです。ただ、これは殿下からのご命令ではなく、私からの個人的な依頼でしたので」
「それで個人的な謝礼ということか」
 納得したふうに、ファサルは頷いて、なにか計算するふうに、横目に天井を見やった。
 やがてその青い目が、あたりを眺め、お喋りに打ち興じる人の群れを経て、こちらに戻ってきた。
「でもね、やはり要らないよ。あんたは個人的な忠義心からやったんだろう。だったら私も見習って、個人的に殿下への忠節を尽くしたことにするよ。だいたいあれは、私にとっては、大した苦労でもないんだ。昔の誼(よしみ)のあるつてを辿って、軽く一声かけさえすれば、自然と集められるような品物なんだよ。人にやる手間賃は、ちゃんといただいたし、損益はない。むしろあんたのほうが、沢山冷や汗をかいたんだろう。麦酒でも飲んで、乾きを癒やしたらどうだろうね」
 杯をあげろと飲む真似をする指で促され、ラダックは苦笑して、麦酒の杯を膳からとった。
 酒は嫌いではなかったが、ここでファサルと酔っぱらうのも妙だと思えた。
 本来なら、同じ仕事をやりとげた間柄として、完遂を祝うささやかな酒宴といったところなのだろうが、ラダックはそういうつもりでファサルを呼びつけたのではなかった。
「ひとつ、ふたつ、お話したいことが」
 手に取った酒杯に口をつける気になれず、ラダックはそれを膝の上に持ったまま、泡の消えかけている黄金色の水面を見下ろした。
「なんだろうね」
 ファサルは諦めて、煙管を吸うことにしたらしかった。
 酒杯の縁から目を上げて盗み見ると、赤黒い軸をした銀の煙管に、膝の上で新しい葉を詰めながら、ファサルはこちらを見ずに聞いていた。
「エル・ギリスが、あなたの素性を調べました。私にもそれを、教えてくれました。それで個人的に、どうしても気になったことがあったので、内密にお訊ねしたいと」
 ラダックが話を切り出すと、ファサルはこちらに目を向けた。その顔が笑っていなかったので、ラダックは口ごもり、自分の肩に力が入るのを感じた。
「あなたは、タンジールの生まれだったんですね。盗賊になる前は、王都の商人だったとか。名前ももちろん、ファサルではなかった」
 身の上話をしてくれと、水を向ける口調で訊くと、ファサルはにやりと、皮肉な笑みを浮かべた。だがそれは、いつもの盗賊の親玉の、人をからかう意地悪な笑みではなかった。おそらく自嘲したのだろう。そんな気配のする、憂いを帯びた顔だった。
「無粋な奴だね、あの若造は。正体不明が売りの義賊の、ちんけな正体を暴いてみせて、一体何になるんだか」
 してやられたふうに文句は言ったが、ファサルは怒ってはいないようだった。いつかはこうして、素性が知れることは、前々から覚悟していたらしい。とうとう来たかというような顔だった。
「もう知っているのに、私の口から身の上話を聞きたいのかい。とんだお涙頂戴だね」
「エル・ギリスが耳に入れてきたのが、本当の話なのか、あなたの話と照らし合わせて、真偽を確かめたいんです」
「それは慎重だ。しかし私も小僧と同じで、自分に都合の良い嘘ぐらいはつけるよ」
 ファサルはそう言って、煙草盆に用意されている火種に身をかがめ、煙管に火を入れた。そしてファサルが一息吹かすと、ぷうんと甘い、古い香木を焚いているような、典雅な煙の匂いが、一時強く立ち上ってきた。
 それはファサルの匂いだった。初めは衣服に焚きしめた香だと思っていたものは、どうもそうではなく、ファサルが喫煙しているこの匂いが、身にしみついたものらしい。
 どこか王宮を思わせるような、気品のある香りで、ファサルにはよく似合っていたが、それを赤い煙管で吸うのでは、あまりに不敬なようだった。赤は王族の色で、ファサルの使う煙管は、限りなく黒に近く色を落としてあるものの、やはり赤かったからだ。
 エル・ギリスも、はじめはそれが、ずいぶん気になったらしい。気になるだけでなく、激怒していたこともあった。盗賊ふぜいが、王族めいたことをやるのは、許し難いというのだった。
 確かにそうだが、殿下がそれを気に入っていて、案外喜んで眺めているので、さすがのエル・ギリスでも、もうどうしようもない。
 悔しいので、ファサルの素性を調べてやろうと、それで思い立ったような節がある。いずれ調べねばならないが、どうせ調べるなら腹いせも兼ねて、卑しい身分の出であるような、尻尾を掴んでやろうと思ったようだ。
 そして調べ上がってきた話は、どことなく驚かされるものだった。
「嘘でもいいですが、調べれば分かることです。できれば無駄な調査費を使わせないでください。同じ玉座に仕える仲間同士です。この際、腹を割って身の上話を」
「そうか、では、座興に話してやろうかな。あんたは調書でもとるがいいよ」
 ふうっと人のいない風下のほうに、吸った煙を細く吐き出して、ファサルはかすかな酔眼で言った。まさか麦酒一杯で酔ったのかと、ラダックは不思議に思った。もしもファサルが下戸だったら、それも意外な一面だ。
 ファサルは時々煙管から吸いながら、どことも知れない人の群れを見やって話した。
「私の生家は、いわゆる王都の煙屋だった。あんたの年で知っているのかどうか、つまり、麻薬(アスラ)を商う商売のことだよ。うちは代々、王宮の御用達で、王族の皆様が嗜まれるための、典雅な趣味のから、戦陣で兵にばらまくような、脳天に突き抜ける配合まで、一手に任されていたこともあったんだ」
 ラダックはファサルの話を、頷きながら聞いた。そこまでは、エル・ギリスの話と一致しているという意味で、頷いているのだった。
「あんたは麻薬(アスラ)をやったことはあるのかい。あんたなら、禁令が発される前でも、悪餓鬼ならもう、好奇心で吸うような年頃だったろうかな」
 ファサルはこちらを眺めてきて、ラダックの年を当て推量したようだった。ラダックはそれに頷いたが、それは麻薬(アスラ)の喫煙に経験があるという意味ではなかった。年齢の話だ。
「私は煙管を吸いません。麻薬(アスラ)も無縁でした。うちは貧しかったので、食うのがやっとで、そんなものに手を出す余裕はありませんでした。禁令が発布されたのも、ちょうど官僚として採用されて、宮殿に仕え始める頃でした」
「それじゃあ、せっかく出世して、一発きめようという時に、お預けを食らって、未だに初(うぶ)のままか。それはさぞかし、恨めしかっただろう」
 ファサルの軽口に、ラダックは思わず伏し目に視線をそらし、笑いをこらえる微笑になった。
「いいえ。私は熱心な族長派でしたので、発された禁令を徹底的に浸透させるために、日夜働いていました。グラナダ宮殿の隅々から、悪い煙を追い出そうとして、必死でしたよ。大体、帳簿を預かる経理官僚までが、麻薬(アスラ)で朦朧としながら計算尺を使うなんていう不届きは、私には絶対に許せなかったのです。それは民から徴収した血税で、多くは国庫に納入されるものでした。そして侵略者と戦う族長のための戦費となる、神聖な銀貨だったんです」
「族長派か」
 煙管を口の端に銜えたまま、ファサルは納得したふうに言った。おそらく話の先を読まれたのだろう。ファサルはまた、自嘲の笑みだった。
「それで私を、吊るし上げようっていうんだね。領主様になり代わって?」
「そうではありません。それに、麻薬(アスラ)の禁令に背いた場合の処罰は、斬首です」
 ファサルが知らないはずはないその事実を、ラダックは口にした。
 知っているという返事の代わりに、ファサルはにやりと笑った。
 彼が今、目の前で吸っているのは、麻薬(アスラ)だった。エル・ギリスがそう言っていた。ファサルのあの匂いに、覚えがあると思って調べたら、的中だった。いざという時には、それをねたにして、ファサルの首を落とせると。
 かつて族長が発した禁令は、当然今でも有効であり、麻薬(アスラ)を喫煙したことが明るみに出れば、審問の後に斬首刑に処せられる。審問で許され、治療に回される者もいたが、それは取調官の胸先ひとつに任されていた。
 発令当初には、熟れた果実を収穫するがごとくに、連日の斬首刑が各都市を震撼させ、熱狂させもした。グラナダでもそれは同じだった。摘発と処刑はグラナダ宮殿の官僚たちが行っていたが、他ならぬその宮殿の中にも中毒者はおり、内部告発が絶えなかった。
 昨日まで文机を並べていた者を告発し、官僚が官僚の首を切る時勢だった。
 どうしても薬を断てない者は、殺すしかなかったのだ。
 どうせもう、後戻りできないところまで来ていた連中で、遠からず死ぬのようなのだった。そんな連中が軍にも官にもいて、部族領のあらゆる場所で、統治のための機構を混乱させていた。
 そんな有害な末期患者たちに、制度による速やかな死を与えつつ、転げ落ちる首を見せしめとして皆に眺めさせ、まだ間に合う者たちを震え上がらせて、麻薬(アスラ)を断てと警告を与えるのが、おそらく玉座の意図だっただろう。
 今思えば恐ろしいことだが、ラダックはその時には何の疑問も感じなかった。族長のご英断だと思った。悪しき煙を絶ち、暗君の時代の迷妄から、一刻も早く立ち直り、侵略者と戦わなければならないという、当時の理想論の矛盾のなさに、深く納得していた。
 そのころまだ十代の半ばを過ぎたばかりで、自分は若かった。冷静なつもりでも、実は熱く血がたぎっていて、それが忠義であり正義と、心底張り切っていた。実際はただの人殺しだというのに、愚かにも、それに気付いていなかった。これは浄化だと信じ、必死で粉骨砕身したのだ。
 そして今また久々に、目の前で禁令に背いている者を見つけた。薄煙をまとったファサルを、ラダックは渋面で見つめた。もしもこの男を見逃したら、過去の自分と辻褄が合わない。かつて粛正の申し子だった頃の、鬼のラダックと。
「まさか今さら私の首を斬ろうというのか。自分でファサルの命乞いをしておいて」
 驚いたという顔で、ファサルは胡座した膝に頬杖をついていた。盗賊の青い目が、笑みもせず真面目に見返してくる凝視を、ラダックは首をすくめて苦笑しながら受けた。
「そういうつもりはないです。あなたはグラナダ市民の英雄の、牛の目のファサルで、私にとっても英雄であることに、変わりはないです。助けたものを、殺しはしません。それにもう、密告も処刑もたくさんです。私は計算屋で、人殺しではありません」
 ラダックのその返答を、ファサルは毒のある笑みをして聞き、分かった風に頷いていた。
「英雄だって? まだそんな事を……」
 苦笑の顔のまま、こちらから目をそらし、ファサルは赤い煙管から、禁じられている煙を深々と事も無げに吸った。そしてその煙管の先で、こちらを指すようにして言った。
「ははん、わかったぞ。思うにあんたは、善人でいたいんだな。とにかく正義と思えるものに、ふらふら酔っぱらう質なんだろう。それは安上がりでいいよ。正義は只(ただ)だし、それに麻薬(アスラ)より深く酔える。だけどこの際言わせてもらえば、麻薬(アスラ)が殺すのは酔っぱらった本人だけだが、正義に酔ったようなやつらは、自分ではなく、他人を殺す。あんたのようなのも、当時は立派に人殺しだったよ」
 ファサルの口調は意地が悪かった。偽善をとがめる気配が言葉の端々にあった。それは粛正の嵐によって、不運な末路を辿った者の言い分だった。
 ファサルの家族は禁令のあおりで、部族に害をなす悪党として迫害の対象となり、離散していた。ファサルが知っているのかどうか、それは分からないが、とにかくエル・ギリスの調べた限り、彼の血筋の者で、その後も生きているのは、本人だけとのことだった。
 ファサルは二十代の初め頃に迫害を経験し、王都を逃れて、他に行き場もなく、グラナダの盗賊に紛れたのだろう。そしてその悪党の群れは、義賊ファサルの率いるものだった。
 やがてそこで序列を極め、過去の名を捨て、自分自身が牛の目のファサルとなった。
 商人から悪党へ、悪党から盗賊へ、盗賊から英雄へ。そして今は、殿下の忠実なる僕(しもべ)。それが目の前の男の変転だ。
 数奇な運命だ。ずっと書類を書き、銀貨を数えていただけの自分と比べたら。しかし人はどこにいても、悪党にはなれる。そして、おそらくは、善人にも。
「あの粛正が偽善だったと言いたいなら、確かにそうですね。結局、都合が良かったんです。新時代に染まぬ古株はみんな、麻薬(アスラ)に耽溺していましたし、禁令にかこつけて、上につかえている堕落した者たちを、一掃することができました。それで汚職も止み、官の機構も蘇り、グラナダ宮殿の風通しは、格段に良くなったんです。それは軍でも、王宮でも、どこでも、きっと同じでしたよ。経過は悪かもしれませんが、結果は善だったでしょう。問題があったのは、時々、やりすぎだったことです。罪のない人まで死にました。それについては、深く反省しています、当時に関わる一人として」
 麻薬(アスラ)にどこまで酔えば手遅れなのか、自分では経験のない者には、分かりにくかったのだ。訊ねようにも、専門家はもういなかった。詳しかった煙屋たちは、迫害を恐れ、あるいはその中で殺害されて、とっくに離散していたからだ。
 禁令を伝える命令書には、こう書かれていた。度々の警告や治療も虚しく、喫煙断ちがたいという者には、断頭をもって報いよと。それは粛正を正当化する文書だった。
 族長は何と、頭の良い人かと、ラダックはそれを見て思った。それに遊び心もある。煙を断てない者の首を断てとは、なんて気の利いた命令書だろう。残酷だが、それは王族ならではの美徳とも思えた。行うべき正義は、それが多少なりと残酷であっても、行われるべきなのだ。玉座の御意を汲んで、高貴なる御手に代わり、命令を細大漏らさず実行するのが、官の勤めであり、それこそ忠義と思えた。
 何故あの頃、それを怖いと思わなかったのだろう。
 確かにファサルが揶揄するように、ほわんと何かに酔うような心地で、新しく昇ったばかりの希望の星に、心からの忠誠を尽くす夢に陶酔していた。皆そうだったのだ。そういう時代だった。
 新たに当代の玉座についたお方は、まさしく太祖の生まれ変わりで、稀代の戦上手で、計略の天才で、深く民を愛し、侵略と敗北に喘ぐ部族を、勝利に導くことができる、史上稀に見る名君と、皆が信じていた。その考えは、飢えた体に沁みる、甘い蜜のようなものだった。
 今もそれは根本としては変わらないが、あの当事の部族領を包んでいたその空気は、もっと激しい熱病のようなものだった。姿も見えぬ新族長に皆が心酔して、命を賭してお仕えしたい、目映く輝く名君の戦場で、いっそ死ねたら本望と、誰しも本気で思っていたのだ。
 経理官僚となったからには、金庫が我が戦場と思い定め、自分もたぶん必死で仕えてきた。見たことのない相手に。グラナダの民に。部族に。そして、稀代の名君に。
 そんな名君の血筋を引く殿下が、グラナダ領主に御自らご着任と聞き、どんなのが現れるかと期待していたら、あんなのだった。
 実は初め、レイラス殿下を見たとき、ラダックはがっかりした。絵にあるような太祖に全く似ていなかったし、それに、座学の出来の良さに自惚れた、口先だけのお坊ちゃんだったからだ。
 結局、名君の血は一代限りなのかと、まず最初には落胆し、やがて、そんなことが許されるかと腹が立ってきた。
 エル・ギリスは大真面目に、レイラス殿下が次代の星だというし、もしも万が一、こんなのが即位するのだったら大事だと思った。名君の登場によって折角持ち直した世は、どうなってしまうのか。
 それで恐ろしくなって、殿下を叩きまくっていたら、案外打たれ強いお方で、英雄譚(ダージ)に聞こえる名君リューズ・スィノニムとは、ずいぶん色合いが違うものの、独特の魅力によって皆の期待に応え始めた。
 これもありかと、今では思う。こっちのほうが、平和だし、血も流れない。自分の性に合っている。
 この人に仕える限りは、自分は正しいことをやったと、時折、首のない者の悪夢に飛び起きて、震えが止まらなくなることもないだろう。
 それでも結局、ファサルに頼んで毒薬の瓶をたんまり買ったことを思えば、行き着くところは同じかもしれないが、これと見込んだ主君の御ためと思えば、きっと耐えられる。
 そこまで思って、ラダックは困り、自嘲の笑みになった。
 なんだか、堂々巡りだな。
 かつては名君の御ためとして、粛正の片棒を担ぎ、次の代には、新星を打ち立てて戦う内戦で、同族殺しの先鋒を勤めようかというのだから。
 本当に、なんでこんなことに。
 勤勉に働き、慎ましく暮らし、善良に生きていくという、貧しかったが正しい人たちだった父母の教えを、忠実に守ってきただけのつもりだったが、民を助ける英雄になりたくて、官僚になったのがいけなかったのか。英雄と悪党は紙一重なのに。それは目の前にいるファサルや、宮殿でとぐろを巻いている氷の蛇を見れば、一目瞭然なのに。
 官僚を目指した少年の頃には、竜の涙はあくまで正義で、牛の目のファサルもそうだった。完全無欠の英雄たちだった。本人たちを目の前にするまで、気がつかなかったのだ。まさか悪党だったなんて。
 でも、そういう人たちが必要だ。偽善に逃げたい官僚服にはできないことを、平気でやってのけられるような強面の忠臣が、レイラス殿下には必要で、牛の目のファサルもその一人だろう。この人がいなけれは、レイラス殿下の胡蜂(すずめばち)は、自慢の針に毒を仕込めなかったのだから。
 しかしこの人は、根っからの悪党ではないと、ラダックは信じたかった。運命の与える悲劇で、やむを得ずそうなっただけだ。牛の目のファサルは、悪党だが正義漢でもあり、どちらが真の姿なのかが、この際の問題なのだった。
 たぶん今ならまだ、ファサルはどちらにでもなれる。悪党の近従を許すレイラス殿下のもとで、本当の忠節を尽くして働けば、部族の英雄になれる。あの殿下にはそういう、悪党を善人に、阿呆を天才に変える、不思議な力がある。
「ファサルさん、あなたは昔、族長に麻薬(アスラ)を調合していましたね」
 声を潜めるラダックに、ファサルはおどけて、耳をそばだてた。
「なんだって? ずいぶん昔の話だな。その頃の名前も、もう忘れた頃合いだよ。今さら私から、ファサルの名を取り上げないでくれないか。これももう、ずいぶん長く連れ添った連れ合いなのでね」
 警戒した顔で笑い、ファサルは用心して話を聞いていた。牛の目のファサルではなくなったこの男が、いったいどんな人物なのか、ラダックは相手の目を見て、見極めようとした。

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