もえもえ図鑑

2008/09/22

若造もいる小宴会(1)

あると嬉しい前知識:大宴会紫煙蝶死せる英雄の肖像(乙)
出てくる人:リューズとイェズラムとジェレフ。
この作品自体は(乙)ではないんですが。たぶん。でも作者以外の誰にも意味不明の予感がいっぱい。ストーリー性もなく、笑えるわけでも泣けるわけでもありません。主旨が設定確認なので、設定萌えーの人向けです。
……すみませんorz
はじまり、はじまり〜。

・ ・ ・ ・ ・

 落ち着いた照明の照らす、木目調の壁に囲まれた一室の中央で、鉄板の入った食卓が、かっかと燃えていた。それはお好み焼きを焼くための専用の食卓で、実際に鉄板の中央には、お好み焼きがじゅうじゅうと音を立てていた。
「いっぺん食ってみたかったんだ、お好み焼き」
 食卓の一辺に胡座して、リューズ・スィノニムは向かいにいる男に言った。
「何を食おうが自由だが、異世界のものに手を出すのはどうかな」
 向かいの席では魔法戦士が煙管を吸っていた。イェズラムは伏し目に、食卓の上で脂煙を上げている、丸い食べ物を見下ろしていた。
「今日はな、イェズラム。ヘンリックに振られたんだ。誘ったけどな、あいつは来なかったんだよ」
「なんて言って誘ったんだ。前回楽しかったから、あれの続きをお好み焼きでやりましょう、か?」
「うん」
 図星をさされた事を嫌がりもせず、リューズは頷いている。
「来ないだろう。前回楽しかったのはお前だけなんだから」
「そうだったのか。今初めて知ったよ」
 じゅうじゅうと音を立てる鉄板を、リューズはじっと見下ろして言った。
「ところでこれは、いつ食うのかな」
「知らないな、さすがにそれは。俺も異世界のことまではカバーしてないよ。さっきからお前、俺がなんとかするだろうと思っているだろう」
 伏し目に鉄板を見下ろしたまま、煙管をくわえ、イェズラムは無表情に言った。
「何とかしないのか」
「リューズ、お前ももう大人だ。自分の食うものくらい、自分でなんとかしろ」
 そう言って、細く煙を吐いた魔法戦士を眺め、リューズは卓上にあったグラスから水を飲み、それをまた卓上に戻した。
「エル・ジェレフを呼んでくれ」
「なぜだ」
「登場させてほしいキャラ、指名率第一位。それにもう、焦げそうだから」
 灼熱した鉄板の上の、キャベツと粉でできた円盤を、リューズはじっと見下ろして答えた。その返答を受けて、イェズラムは深いため息をゆっくりとついた。
 そして煙管を持ったままの右手で、懐から携帯電話を取りだした。
「エル・ジェレフか。俺だ。族長がお好み焼きを食いたいらしい。二秒で来い」
 イェズラムは電話に淡々と命じた。指にはさんだままの煙管から、灰が落ちないのかと、リューズは気になって眺めた。
 イェズラムが電話を切り、それを懐に収め、煙管の灰を灰皿に打ち落とした時、誰もいなかった食卓の一辺に、エル・ジェレフが座位で控えていた。
「長(デン)」
「いつも済まないな」
 無表情に労うイェズラムは、まったく済まなそうには見えなかった。
「リューズ、お前はこいつのことを、なんだと思っているんだ」
「親切な若造。頼まれたら嫌とは言えない男。当代の奇跡」
 すらすら答えるリューズの話を、イェズラムは頷きながら聞いた。
「うん、まあそうなんだがな。お前はちょっと、魔法戦士を乱費しすぎだと……」
「長(デン)」
 片耳に手を当ててインカムの声を聞き、エル・ジェレフが遮った。イェズラムは顔をしかめた。話の腰を折られるのが、大嫌いだった。
「お話の途中ですが、巻いてくれと右脳から指令です」(※巻く=急ぐ)
「そうか」
 しかめた顔のまま、イェズラムは答えた。
「今日の議題だが」
 給仕するエル・ジェレフをじっと見つめて、リューズが言った。
「キャラクター性の不整合についてだ」
「悩んでるのか、リューズ。自分の性格の異常を」
 自分にも皿を寄越したジェレフに隻眼となった目で答礼し、イェズラムは訊ねた。
「悩んでるのは、俺じゃなく、読者だ」
 皿には目もくれず、イェズラムは煙管に新しい葉を詰めた。
「お前自身が悩んでいないことに、俺は悩んでいるけどな」
 ジェレフが火種を差し出したので、イェズラムは横を向いて、それから煙管に火を入れた。燃え始めの強い香りが、薄煙となって、あたりを漂った。
 リューズは薄く笑って、匂いを嗅いでいるような、大きく息を吸う仕草をした。
「いい匂いだなあ」
「食ったらいいだろ」
 配られた皿を顎で示して、イェズラムは促した。リューズはくすりと笑ってから、楽しげに箸をとった。
「不整合とは何のことですか、族長」
 イェズラムに麦酒を注がれながら、ジェレフは恐縮したふうに、それを両手で受けていた。もぐもぐ咀嚼してから、リューズは答えた。
「作品ごとに、性格が違って見えるんだってさ、俺は。お前もそうだぞ、エル・ジェレフ。『紫煙蝶』や『深淵』の時と、それ以外とで、性格違うって読者に言われているぞ」
「はあ。違うでしょうか」
 返事をしてから、リューズに飲むよう促され、ジェレフは麦酒を飲んだ。考える顔で一気に呷(あお)って、ジェレフは小ぶりなグラスを空にした。
「竜の涙はな、リューズ。晩年にさしかかると、大体の者は人が変わってくるんだ。暗くなったり、皮肉屋になったり、意地悪くなってきたりな。薬のせいもあるだろうが、一生分の疲労だよ」
 煙を味わいながら、イェズラムは解説した。
「ジェレフはましなほうだろう。こいつは元々、人が良かったからな」
「そうだなあ。お前の無茶苦茶さに比べたら、エル・ジェレフは天使みたいなもんだったよ」
 ジェレフは、なにかリアクションをしたほうがいいのか、という顔をしたが、結局黙っていた。リューズは食いながら、皿だけを見て話していた。
「お前はもともと底意地が悪かったからさ。晩年に変わったというより、自制心が崩れ落ちて、本性を現したっていう感じだったよな。お前はずーーーっと、俺のことを、八つ裂きにしたいと思ってたんだろ」
「思ってないよ。散々世話になっといて、よくもそんな事が言えるな」
 心底呆れたという顔をして、イェズラムは眉をひそめ、にやにや食っているリューズを見下ろした。
「いや、絶対思っていた。たとえば俺が最初に先陣に立って突撃したとき、戻ってきたのを迎え出たお前は、そういうツラをしていた」
 可笑しくてたまらんという顔で、リューズは微かに歯を見せて笑った。伏し目に水を飲み、その笑みを隠すのを、イェズラムは渋面のまま見下ろした。
「ああ、思ったかもな。瞬間的には」
「一瞬でも思えば十分だろう。俺にそこまで思うやつは、他にはいないんだよ。たとえばジェレフ、お前は俺を殺したいと思ったことはあるか」
 黙って聞いていた青年に、リューズは急に顔を向けて訊ねた。
 ジェレフは慌てたふうに首を横に振った。滅相もないという顔で。
「そうだろう? 普通そうだよ。主君にそこまで思うのは大逆なんだよ。たとえ思うだけでもな」
 笑って、頷きながらリューズに言われ、ジェレフは操られるように、頷き返して聞いていた。それを見て、イェズラムはひどく苦みの強い苦笑をした。
「何を思おうが俺の勝手だよ。お前に俺の腹の中が見えるわけじゃなかろう」
「いやぁ、見えるよな。お前の腹の中は」
 どうしたもんかという目をしているジェレフの顔を、まだじっと凝視して、リューズは答えた。
「それでな、話は飛ぶけど、不整合の話な。突き詰めると『熱砂の海流』という作品の中の俺と、それ以外の時とで、性格が違うようだという事みたいだな」
「違うだろ」
 短く吐き捨てるように、イェズラムは答えた。リューズはそれに、そうかなあという顔をした。
「違うか?」
「そりゃ違うだろ。『熱砂の海流』はホモ小説で、お前と俺はデキてることになってるんだろ。それと現実とで同じだったら、不気味すぎるだろ」
「案外さらっと、すごいことを言ったなあ、エル・イェズラム。この場も弁えず。ここがどこだと思っているんだ」
「お好み焼き屋のVIP室だろう。俺が手配したんだから知っているよ」
 目を瞬いて聞くリューズに、イェズラムは渋面で答えた。
「そういう問題じゃないんだよ。作者はこれを無制限に公開しているんだぞ。それにお前の舎弟(ジョット)も顔面蒼白で聞いているんだ」
 視線は向けぬまま、リューズは顎で、硬直しているエル・ジェレフを示した。
「あのなあ、リューズ。俺はもう死んだから。今さら怖いものなど何もないよ。お前がその後どうなろうが、知ったこっちゃないよ。面倒見切れないんだよ」
「そう言わず、面倒見てよ」
 ふっと笑って、リューズは言った。からかうような口調だった。
「読者はお前が、普段は厳しいのに、時々優しい、その時々っていうのがいいんだって。だから時々は俺に優しくしろよ。そのほうがウケる」
「それはホモ小説での話だろう」
「ホモ小説言うな」
 リューズは初めて参ったふうに眉をひそめて言った。イェズラムは渋面で煙管を吸うだけで、それに取り合わなかった。
「あのな、リューズ」
 ふーっと煙を吐いて、イェズラムは煙管を支えた手の親指で顎を掻き、まだ固まったままのジェレフを横目に見つめた。
「俺がお前のケツに突っ込んで、それで治世が立ちゆくなら、そんなこと毎晩でもやってやったよ。それでお前の異常性格が、可愛く変わるもんならな」
「今、軽く凄いことを言われているよな、俺」
 頷きながら、リューズは真顔で、独りごちるように相づちを打った。
「でもなあ、現実にはそんな、簡単なもんじゃないよ。お前がそんなちょろいもんか。あれはとにかく、話の都合に合うように、人柄を変えてあるんだよ」
「つまり別人?」
 リューズはさもびっくりしましたみたいに肩をすくめて驚いてみせた。
 それを眺め、イェズラムはさらに渋い顔をした。
「別人というかだな、まあ、恋愛を成就させるための予定調和的な変容だな」
「なになに、俺の眉間に皺が寄らないような言葉で言ってよ」
 眉間に皺を寄せ、リューズは聞き返した。
「だからな、あれはまず恋愛ありきだろう。恋愛しなくちゃ話が始まらないから、まずそこが固定されて、それにとって都合のいいように、その他の部分が構築されるんだ。キャラクターの性格も、それに引っ張られて変形するし、物事の解釈も、ご都合に合わせて緩(ゆる)んでくるんだよ」
「緩(ゆる)む……」
 伏し目に淡々と教える乳兄弟の兄(デン)を、リューズは眇めた目で見つめた。
「お前、緩んでて、あれか。緩んでアレ?」
「二回言うな」
 鋭く言われ、リューズは納得いかないふうに、唇を噛んでいる。
「ジェレフ、お前は読んだか、『熱砂の海流』は」
「読んでいません」
 鞭打たれた犬のように、ジェレフは即座に答えた。その顔は蒼白な渋面だった。
「なんで読まないの。話が通じないよ。しょうがないやつだなお前というやつは」
「主君が上司と恋愛してるホモ小説を部下に読ませようとするお前のほうが、百万倍しょうがないよ」
 練れた間合いの鋭い突っ込みで、エル・イェズラムが言った。たしなめたのか、罵ったのか、判然としない口調だった。
 リューズはそれにも、平気でいた。
「まあいいよ。あれを読んでない人も、これを読んでるわけだから。解説するけど、あっちではお前、優しいじゃん。でも全体から見て、ほんの一瞬だよ」
「そんなの、ほんの一瞬あれば事足りるだろう」
 答える声はにべもない。
「いやいや、そうかな。世の中には常に優しい者もいるよ。たとえばこいつとか」
 ジェレフを示して、リューズは言った。
「それは、そういうキャラクター性だからだろう」
「ええー……」
 わかりやすい不満の声で、リューズはそれに答えた。
「こいつだって、あっちに出されたら、それ相応に歪んでくるさ。時空の洗礼ってやつだよ。『深淵』見てて思ったけど、お前もちょっと変だぞジェレフ。リューズを美化しすぎだ。陶酔入ってるだろ」
 煙を吐く魔法戦士の皿で、食べ物はもう冷たく乾き始めている。ジェレフは逃げ場がないように、その皿の上を見ていた。
「入ってましたか……」
「うん、まあ、しょうがないけどな。そうなるような仕組みにしたのは俺だから」
 頷きながら答え、イェズラムはどこか、部下を慰める口調だった。
「その壮大なな、お前の創った妄想と陶酔の舞台装置でだな、俺は日々踊らないといけないわけよ。踊り子さんだよ。服は重いし、責任も重いだろ。なんとかなんないの。たまには俺も息抜きしたいんだけどな」
「してるだろ、今。激しく抜いてるじゃないか」
 渋面でぼやくリューズに、イェズラムはしれっと答えた。
「いやいやいや、これは別だろ。だってこれは新開発の箱庭時空だろ。現実には存在してなくて、ここで抜いても、溜まってる現実には何の影響もないよ」
 顔をしかめて反論するリューズは、いかにも溜まっているかのような口調だ。
「好き放題ハジケてるお前の、どこに何が溜まるっていうんだ」
「ハジケてないよ全然。ものすごく我慢しててこれだよ」
「どんだけアホなんだ真のお前は」
 即答したイェズラムに、リューズは平気でいたが、脇で見ているジェレフがあわあわした。
 あわあわしている若造を見つめ、おっさんふたりは遠い目をした。

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