イェズラム様は頭が痛い
その1。銀の泉と。
「焼き払え!」
攻め寄せる敵の大群を示し、族長リューズ・スィノニムは命じた。
炎の蛇と異名を与えられた英雄イェズラムは、その冷静な金色の瞳で、襲い来る守護生物(トゥラシェ)の群れを見つめた。
「どうした化け物」
罵るリューズの声に、イェズラムは顔をしかめ、背後の馬上にいる錦の鎧の王族を見返した。まるで自分に言われたようだったからだ。
リューズはその爛々と輝く黄金の眼でこちらを睨み、不敵に笑っていた。
「それでも、かつて七日で世界を焼き尽くしたという、呪われた一族の末裔か!」
リューズは嬉しそうに叫んだ。
「リューズ、それは『風の谷のナウシカ』じゃないのか」
イェズラムは思わず突っ込んだ。
「そうだ。いっぺんやってみたかったんだ。クシャナ様ごっこ」
「俺は巨神兵か……」
にこにこ頷くリューズは機嫌がよかった。
英雄は頭痛がしてきた。なんでもありだな、もえもえ図鑑。
そうして今日も、イェズラム様は頭が痛い。
その2。氷の蛇と。
「いいか、ギリス。魔法には出力がある。大なり小なり、都合に合わせて自由に使いこなせるようになれ。そして魔力の浪費を最小限にするんだ。それが長生きのこつだぞ」
自分の腰ほどもない背の相手に、イェズラムが片膝をついて目線を合わせてやると、子供は無表情な氷のような目で、こっくりと頷いた。
分かったらしかった。反応の薄い子なので、反応したということは、分かったはずだ。
「じゃあまず(大)からやってみろ。ついでに射程も見るからな」
立ち上がって命じると、子供はこっくり頷いて、眼前に広がる地底湖を見つめた。
ギリスが瞬いて、しばし後、かすかに薄霧が漂い、唐突に湖面が氷結した。その予想外の広範囲さに、イェズラムは唖然とした。
「なかなかやるなあ、お前。これほどとは思わなかったよ」
感心して褒めると、ギリスはその魔法と同じく、唐突ににっこりと笑った。愛想の良いやつだと思い、イェズラムは思わず薄く笑い返していた。
「では、次は(小)でやってみろ」
にこにこ頷いて、ギリスは首を巡らし、まだ空いている湖面を見やった。
薄霧が漂い、びしびしと音を立てて湖面が氷った。
さっきよりも広かった。
「……ギリス、これは(小)かな」
鼻白んで訊ねると、子供はにこにこして待っていた。褒めてくれということらしかった。
「なかなかやるなあ、お前……今日はここまでにしておくか」
話が通じているのか、いないのか、人の話を聞いていないだけか、なんだかよく分からなかった。ちょっとズレてるっぽいが、根は良い子みたいだから。根気強く育成すれば、きっと使えるようになるだろう。
信じて待てば、きっとこいつにも、変わる日が来るさ。
そして数年後。
長老会の部屋(サロン)のすみで、おとなしい子犬みたいだったギリスも、無事に元服に至り、口数が多くなってきた。活発になり、急にあれこれ興味が湧いてきたようで、近年、毎日が質問攻めだ。変わったものだとイェズラムは思った。
「イェズラム」
ちょっと休憩、という時を見計らったふうに、いつものごとくギリスが物問いだけな顔で来た。
なんだと答えると、ギリスは言った。
「エル・エレンディラは乗馬が上手い」
それは事実だったので、イェズラムは頷いた。同じ部屋の対岸に、話し込んでいるエレンディラがいたので、あえて言葉に出して褒めたくはなかったが、頷くぐらいはいいだろう。
「馬場でそれを見ていたやつが」
表情の乏しい真顔で、ギリスは淡々と質問を続けてきた。
「俺も馬になりたいって言ってたけど、それはどういう意味。それは、エル・エレンディラと騎乗位で一発やりたいっていう意味か。それをイェズに訊いたら殺すって言われたけど、それはどういう意味」
あっはっはとイェズラムは笑った。頼むから空気読んでくれないか。
「ぱかぱか、お馬さんごっこ?」
だめ押しに呟く真顔のギリスが、可笑しいというか、笑うしかない。
根はいい子だったのが、すっかり脱皮して、悪党ギリスになっていた。変わりすぎだろ、エロ餓鬼が。言われたこっちが恥ずかしいわ。
ていうか、そいつの名前を言え。ご期待通り、ぶっ殺してやるから。何を知ってるかは知らないが、全部忘れたい気持ちにさせてやる。
「イェズラム」
険しい顔で呼びかけ、向こうで話し終えたらしいエレンディラが、つかつかとやってきた。
「また、わたくしの悪口ですか。聞こえていましたよ。ほんとにむかつきます」
きいっと反発を振りまいて、エル・エレンディラはわざわざ釘をさし、忙しいのか、足音高くとっとと出て行った。
話は、ほとんど聞こえていなかったらしい。名前のところだけ漏れ聞いて、あとは持ち前の被害妄想だろう。
「エル・エレンディラは天然だな」
ギリスは深く感心したように頷いて言った。
「ああ、あいつは本当に天然だ……」
イェズラムはそれに、なんとなく頭を抱えて頷き返した。
どいつもこいつもか。天然だらけか。
そんなこんなで、今日も今日とて、イェズラム様は頭が痛い。
《おしまい》
---------------
なんか、こんなネタ果てしなく書けそうですが。
その1。
元ネタこれだろと思うので。パクったわけではないが。幼心にインパクト大だった名作だしなあ。そう思って見ると、そうとしか見えないのであります。目の色についてのフォントいじりは一部の人向けの地味に笑えるネタだよ。
その2。
懐かしい、えろがきギリスちゃん。この頃の君も良かったよ。なんだか特殊な気まずいキャラでさ……。
「焼き払え!」
攻め寄せる敵の大群を示し、族長リューズ・スィノニムは命じた。
炎の蛇と異名を与えられた英雄イェズラムは、その冷静な金色の瞳で、襲い来る守護生物(トゥラシェ)の群れを見つめた。
「どうした化け物」
罵るリューズの声に、イェズラムは顔をしかめ、背後の馬上にいる錦の鎧の王族を見返した。まるで自分に言われたようだったからだ。
リューズはその爛々と輝く黄金の眼でこちらを睨み、不敵に笑っていた。
「それでも、かつて七日で世界を焼き尽くしたという、呪われた一族の末裔か!」
リューズは嬉しそうに叫んだ。
「リューズ、それは『風の谷のナウシカ』じゃないのか」
イェズラムは思わず突っ込んだ。
「そうだ。いっぺんやってみたかったんだ。クシャナ様ごっこ」
「俺は巨神兵か……」
にこにこ頷くリューズは機嫌がよかった。
英雄は頭痛がしてきた。なんでもありだな、もえもえ図鑑。
そうして今日も、イェズラム様は頭が痛い。
その2。氷の蛇と。
「いいか、ギリス。魔法には出力がある。大なり小なり、都合に合わせて自由に使いこなせるようになれ。そして魔力の浪費を最小限にするんだ。それが長生きのこつだぞ」
自分の腰ほどもない背の相手に、イェズラムが片膝をついて目線を合わせてやると、子供は無表情な氷のような目で、こっくりと頷いた。
分かったらしかった。反応の薄い子なので、反応したということは、分かったはずだ。
「じゃあまず(大)からやってみろ。ついでに射程も見るからな」
立ち上がって命じると、子供はこっくり頷いて、眼前に広がる地底湖を見つめた。
ギリスが瞬いて、しばし後、かすかに薄霧が漂い、唐突に湖面が氷結した。その予想外の広範囲さに、イェズラムは唖然とした。
「なかなかやるなあ、お前。これほどとは思わなかったよ」
感心して褒めると、ギリスはその魔法と同じく、唐突ににっこりと笑った。愛想の良いやつだと思い、イェズラムは思わず薄く笑い返していた。
「では、次は(小)でやってみろ」
にこにこ頷いて、ギリスは首を巡らし、まだ空いている湖面を見やった。
薄霧が漂い、びしびしと音を立てて湖面が氷った。
さっきよりも広かった。
「……ギリス、これは(小)かな」
鼻白んで訊ねると、子供はにこにこして待っていた。褒めてくれということらしかった。
「なかなかやるなあ、お前……今日はここまでにしておくか」
話が通じているのか、いないのか、人の話を聞いていないだけか、なんだかよく分からなかった。ちょっとズレてるっぽいが、根は良い子みたいだから。根気強く育成すれば、きっと使えるようになるだろう。
信じて待てば、きっとこいつにも、変わる日が来るさ。
そして数年後。
長老会の部屋(サロン)のすみで、おとなしい子犬みたいだったギリスも、無事に元服に至り、口数が多くなってきた。活発になり、急にあれこれ興味が湧いてきたようで、近年、毎日が質問攻めだ。変わったものだとイェズラムは思った。
「イェズラム」
ちょっと休憩、という時を見計らったふうに、いつものごとくギリスが物問いだけな顔で来た。
なんだと答えると、ギリスは言った。
「エル・エレンディラは乗馬が上手い」
それは事実だったので、イェズラムは頷いた。同じ部屋の対岸に、話し込んでいるエレンディラがいたので、あえて言葉に出して褒めたくはなかったが、頷くぐらいはいいだろう。
「馬場でそれを見ていたやつが」
表情の乏しい真顔で、ギリスは淡々と質問を続けてきた。
「俺も馬になりたいって言ってたけど、それはどういう意味。それは、エル・エレンディラと騎乗位で一発やりたいっていう意味か。それをイェズに訊いたら殺すって言われたけど、それはどういう意味」
あっはっはとイェズラムは笑った。頼むから空気読んでくれないか。
「ぱかぱか、お馬さんごっこ?」
だめ押しに呟く真顔のギリスが、可笑しいというか、笑うしかない。
根はいい子だったのが、すっかり脱皮して、悪党ギリスになっていた。変わりすぎだろ、エロ餓鬼が。言われたこっちが恥ずかしいわ。
ていうか、そいつの名前を言え。ご期待通り、ぶっ殺してやるから。何を知ってるかは知らないが、全部忘れたい気持ちにさせてやる。
「イェズラム」
険しい顔で呼びかけ、向こうで話し終えたらしいエレンディラが、つかつかとやってきた。
「また、わたくしの悪口ですか。聞こえていましたよ。ほんとにむかつきます」
きいっと反発を振りまいて、エル・エレンディラはわざわざ釘をさし、忙しいのか、足音高くとっとと出て行った。
話は、ほとんど聞こえていなかったらしい。名前のところだけ漏れ聞いて、あとは持ち前の被害妄想だろう。
「エル・エレンディラは天然だな」
ギリスは深く感心したように頷いて言った。
「ああ、あいつは本当に天然だ……」
イェズラムはそれに、なんとなく頭を抱えて頷き返した。
どいつもこいつもか。天然だらけか。
そんなこんなで、今日も今日とて、イェズラム様は頭が痛い。
《おしまい》
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なんか、こんなネタ果てしなく書けそうですが。
その1。
元ネタこれだろと思うので。パクったわけではないが。幼心にインパクト大だった名作だしなあ。そう思って見ると、そうとしか見えないのであります。目の色についてのフォントいじりは一部の人向けの地味に笑えるネタだよ。
その2。
懐かしい、えろがきギリスちゃん。この頃の君も良かったよ。なんだか特殊な気まずいキャラでさ……。
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