もえもえ図鑑

2008/07/21

もう一度だけチャンスをやろう

 ここは狭間の時空。物語と物語の間にある場所。(元ネタ
 今日も神の視点からいろいろ書くよ。
 彼の名はスィグル・レイラス。「蜜月」の収録を終えて、ふと思った。
 そうだ。グラナダに連れて行く竜の涙に、エル・ジェレフも入れたらどうだろう。
 「氷結」では、せっかくの僕の誘いを断りやがって。きっと後悔してるに違いない。後悔しないはずない。絶対そうだ。
 そんなの可哀想だから、ジェレフにはもう一度だけチャンスをやろう。寛大な僕に感謝するがいい。
 というわけで、も一遍だけジェレフを呼び出してみた。
「エル・ジェレフ。僕の領地グラナダに小さな宮廷を作ることにしたから、そこに仕える竜の涙を選んでいるところなんだ。治癒者も必要だと思うから、ジェレフが来てくれると嬉しいんだけど」
 上から目線の割に、ついつい口調は低姿勢だった。ジェレフには頭があがんない。
 話を聞いたジェレフは、困ったなという顔で笑った。
「いい話だと思うけど、俺は君のお父さんの宮廷に仕えている身だから。族長が行けというなら、どこへでも行くけど、俺の一存では決められないな」
 無難な返事をしやがった。
 正直むかついたので、それを隠そうともしないスィグル・レイラスだったが、むっとしている彼に、エル・ジェレフは苦笑して、ごめんねと呟いただけだった。
 父上にオネダリしてみるという手もあるけど、それはそれで負けた気がするので、スィグルは泣く泣く諦めた。
 無痛のエル・ギリスで我慢しよう。
「お前またジェレフを口説いたろ」
 噂っていうのは光よりも早く駈けるものである。特に宮廷というところでは。
 隠れて誘うのは無様だと思って、広間(ダロワージ)で堂々と正式に申し入れて、正式に玉砕したのが失策だったのか。見ていたのか人から聞いたのか、ギリスはすでに知っていて、怒っているというより情けないという顔でいる。
「もう口説かないって言ってたじゃん。氷結では。この嘘つきが」
「しょうがないよ、嘘をつくのは僕のキャラクター性だから。初期設定の時代からそう書いてあったよ。嘘つきスィグルって」
「そんなメタフィクショナルな話でごまかそうとするな。ジェレフのことはあきらめろ。あいつは年上が好きなんだ」
 えっ、そうなの?
「そうだよ。餓鬼のころからエル・イェズラムの取り巻きで、お前の親父にも骨抜きにされてんだろ。ジェレフは気が弱いから、こいつの言うなりになって必死に頑張ればいいんだみたいな相手に弱いんだ。族長が出す王族光線にあたってないと、いてもたってもいられないようなやつなんだ」
「そんなの僕だって出せるさ、僕だって王族なんだから」
 腕組みして立っている冷たい目のギリスに、スィグルは強がってみせた。そんな目で見るな。
「お前と族長では、格が違う。深淵を読んでみろ」
 スィグル・レイラスは読んでみた。
「父上……。ジェレフに死ねなんてひどいよ」
 ほんまにひどい話だった。
「お前が紫煙蝶で、ジェレフ死なないでなんて泣きべそかいてた時に、お前の親父はこんなふうだったんだぞ。勝てっこないだろ。戦え我が英雄よ、にっこり、でこれまで何人殺してきたか。俺だってヤンファール戦線ではあやうく籠絡されかけて、必要以上に頑張ってしまったさ。お前も修行して、あれくらいの王族光線が出せるようにならなきゃ」
「ううう……そうだねギリス」
 スィグル・レイラスは敗北感に打ちのめされて頭を抱えた。
「大丈夫。お前も最近ちょっとだけ出てるから」
「ほんと? ギリスは父上でなく僕に仕えてくれる?」
 エル・ギリスの励ます笑顔に、スィグルは微笑み返した。こういうときのギリスは優しいのが取り柄だ。
 スィグルの問いかけに、ギリスはもちろんという顔で頷いた。
「じゃあ、お前が行って、僕のいうことをきくようにジェレフを説得してこい」
「……殺すぞ」
 そうは言え、せっかくの新星を抹殺するわけにもいかないので、いっちょ揉んどくだけにしておいた。その詳しいあらましは読者のご想像にお任せして全省略。ラブコメなんてハイレベルなものは書けないから。
 そういえば、紫煙蝶のとき、ギリスはいったいどこで何をしていたのか、作者はその穴をどうするつもりなのか。最終魔法「まあいいか」を発動して走り去ってもいいが、辻褄合わせをしておいたほうが無難ではないか。
「俺はたぶんグラナダにいた。蜜月でタンジールを発ってから、たぶんずっとグラナダにいたんだ」
 そうなの? いっぺんも帰らなかったの?
「あとから矛盾する諸事情が出てくれば別だけど。スィグルは結局、この後の人生のほとんどをグラナダで過ごして、ときどきタンジールに帰るだけの暮らしをする。里帰りしたときの留守居役が必要だろ」
 おるすばんギリスなの?
「おるすばんギリスなの」
 そう反復して、ギリスは深く頷いた。
 それでいいの。君は都会の宮廷人だったのに、タンジールから見たらグラナダはド田舎だよ。いいところらしいけど。発展途上の街で、雑務も多いし、タンジールにいたときみたいに、ふらふら遊んでられないよ。
「それでいいの。忙しければ退屈しないし。グラナダを富ませて、ヘタレなスィグルの継承争いの助けにしなくちゃならない。王宮でごちゃごちゃ争うのが継承争いの基本行動だけど、平時の統治手腕を族長に見せつけられれば、それは確かに大きな評価点になる。スィグルはビビリだから戦なんかでは役に立たない。平和なときに継承させるのが、やつが一番威力を発揮できるんだ」
 ギリス……あほじゃなかったの?
「誰があほだ」
 そうだった……。本編時空のギリスは元々は文官だったんだった。官僚だっていう設定だったのよ。それを作者が、もっと派手さが欲しいなと言うことで、竜の涙に変えたんだった。
 そして魔法戦士になったあほあほギリスと、おおもとの設定にあった官僚タイプの氷の蛇との、合成合体を試みたんだった。
「グラナダを、みんなが歌って暮らせる幸せな都市に。それが新星が最初に描いた夢で、俺はそれを気に入っている。甘ったれだけど、あいつを何とか族長にして、その夢を部族領全土に広げよう。そのために死んでもいい。それが俺の英雄譚(ダージ)になるだろう」
 うまいことフュージョンしたようですね。おめでとうございます。
 ところでエル・ジェレフが死んで、あなたも悲しかったですか。
「いいや、全然。あいつはいいやつだった。一緒に戦えて幸せだった」
 たぶんそれが、紫煙蝶のときに、スィグルが君を随行しなかった理由なんじゃないのかな。そんなこと言われたら、たまらんよね。いっしょに泣いてほしいときが、人にはあるものじゃない。
 無痛のエル・ギリスは苦笑した。
「完全無欠のキャラクターなんて、この小説にはひとりもいないさ。みんな痛いやつばっかりさ。作者はむしろ痛みのある組み合わせを選んで、絡みをつくってんのさ。そういうサド女なのさ」
 お褒めの言葉をありがとうございます。
 そろそろお時間も尽きましたようで。この勲(いさおし)はこれまでにて、英雄たちの戦いはなおも続く。新たなる物語は別の巻にて、息を呑み耳をそばだてて聴くダロワージの静寂に、いやなお晴れがましく響き渡るであろう。
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