もえもえ図鑑

2008/07/31

新星の金庫番(1)

 レイラス殿下ご一行様は無事グラナダに辿り着いた。
「あー疲れた。暑っいなぁ、クーラーもないのか、ここ。砂だらけじゃん。風呂入って寝たいけど、その前に謁見か、めんどうくさいなあもう、飲み物くらいサッと出てこないもんかなあ、これだから田舎はいやだ」
 いきなり不満しか出てこないスィグルを本当にすごいとギリスは思う。金の麦が歌う楽園だったのはどこの街だ。来る途中で道を間違えて、グラネダとか、グリナダとかに着いたのか?
 宮殿の広間はちっこい玉座の間(ダロワージ)のようで、奥の一段高くなった舞台のような場所に、これまた本物の玉座より二回りほど小さい、石造りの玉座っぽいものが作られていた。
「石の椅子って腰冷えそうじゃない?」
「その石の椅子にお前のオヤジは半日にこにこ座ってるんだから、お前もやる気あるんだったら、それくらい我慢すれば?」
「冷え症だと族長にはなれないな」
 スィグルは渋々だが、見た目はにこやかにプチ玉座に座る。
 広間には先遣隊としてすでにグラナダに到着していた少数の臣下が平伏していた。タンジールの数知れない廷臣が居並ぶ広間とちがって、いかにも疎らだが、まあそれは仕方がない。
 名前を呼ばれて、一人の若い男が恭しく跪拝叩頭した。
「ご拝謁の栄に浴し恐悦です、レイラス殿下。私は殿下の金庫番です。グラナダの財政を任されています」
「役目ご苦労。名前はなんだっけ?」
「実は未定です。もともとはギリスでした。つまり私は官僚バージョンの氷の蛇だったころのギリスの残り物です。新しい名をお与え下さい」
 びっくりしてギリスは彼を見た。出だしが一緒という割に、似ても似つかない相手だったからだ。いかにも気むずかしそうで、いかにもキレ者そうだった。
 スィグルも驚いたふうに目をぱちぱちさせ、残り物ギリスを見下ろしている。
「名前はなにか作者に考えさせておこう。それはそうと、お前は具体的にはどんな仕事をしているんだい」
「はい、いきなりですがグラナダの財政には無駄が多いです。もともと資源に恵まれた土地柄ですので、どんぶり勘定でも財政が立ちゆきますが、どうせならきちんと運営して、がっぽり稼ぐことをご提案いたします」
「なんて美しい響きだ」
 うっとりとスィグルは残り物を見つめている。育ちがいいくせに、スィグルは金目のものに目のないやつだ。官僚タイプのほうがスィグルにはもてたんじゃないかと、ギリスはやや不吉な思いがした。
「殿下のご入城を待たずご無礼とは存じますが、離宮ご建設にあたり、かなりの資金が必要となりますので、貯金から使うのも癪ですから、公債を発行しておきました」
「公債」
 スィグルが確かめると、残り物は深々と頷いた。
「レイラス殿下ご着任記念債です。グラナダで開発されたばかりの印刷技術を駆使し、債券には殿下のご尊顔を配しました」
「えっ、お前そんな勝手なことを」
 見本を手渡されて、スィグルは愕然としている。
 両手の掌を合わせた程度の大きさの、しっかりとした紙切れに、黒と赤の二色刷りで、スィグルの絵姿が印刷されていた。
 まあまあ似ていた。そっくりという感じではないが、本物より毒がなく可愛げがある。ギリスは感心してそれをのぞき込んだ。この小宮廷には腕の良い絵師がいるらしい。
「めちゃめちゃ売れました」
 残り物は表情ひとつ変えずに断言した。
「グラナダ市内だけでなく、ほかの都市にも、部族領の外ですら流通しているようです。この商売は見込みがあります、レイラス殿下。お客様アンケートによると、絵がネコミミなら十倍払ってもいいとのことです。是非ともご許可を」
「お前には恥はないのか」
 呼吸困難に喘ぎながら、スィグルは力なく金庫番をなじった。
「ございません。金の前では」
 ギリスは昔は自分の一部だったという鉄面皮の男をじっと見つめた。
 グッジョブ、残り物。さすが、もと俺。
 きっと天才だから、財政的にはこの男に一生ついていけばいいとギリスは思った。

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